会社を立ち上げると、登記や口座開設、社会保険の手続きなど、やることが一気に増えます。
その中で「法人保険」はどうしても後回しになりがちですが、社長に万が一があったとき、会社と家族を守れるかどうかを左右する大事なテーマです。
とはいえ、設立直後から入るべきなのか、黒字化を待った方がいいのか、判断に迷う方も多いと思います。
この記事では、社会保険との違いから、設立年数や会社のステージ別に「法人保険はいつ入るべきか」を整理し、失敗しないための考え方とチェックポイントを、なるべく専門用語を使わずにお伝えしていきます。
- 会社設立後の法人保険の入りどきを、社会保険との違いと会社のステージ別に整理しました。
- 1人社長や借入が大きい会社など、すぐに加入を検討した方がいいケースと、様子を見てもよいケースを具体的に解説しています。
- 節税だけに偏らず、キャッシュフローと万が一のリスクのバランスを取りながら、賢く法人保険を選ぶためのチェックポイントをまとめました。

【保険コンサルタント:長谷川】
保有資格
- 損害保険募集人資格
- 生命保険募集人資格
- 損害保険大学課程資格
- FP2級
保険業界歴12年、火災保険取扱件数2,000件、保険金の請求対応の顧客満足度98%
会社設立後、法人保険はいつ入るべきかの結論
これから会社設立後、法人保険はいつ入るべきかの結論について解説します。
ここでは次の内容をお伝えします。
- 法人保険の「入りどき」は会社のステージで決まる
- 基本は設立から1年以内に方向性だけは決めておく
- 迷ったときは「今入らないリスク」から逆算する
法人保険の「入りどき」は会社のステージで決まる
法人保険に入るタイミングは、何年目かという年数だけではなく、会社のステージで決まります。
設立直後で借入が大きい会社と、自己資金中心でスタートした会社では、必要な保障もスピード感もまったく違うからです。
社会保険のように「設立後5日以内に手続きが必要」と法律で決まっているわけではありませんが、経営者に何かあったときに会社が止まってしまうリスクを考えると、法人保険は経営リスク対策の一つとして、会社の状況にあわせて検討する必要があります。
創業初期は、社長1人に売上や意思決定が集中しやすく、社長の不調がそのまま会社の危機につながります。
だからこそ「自社はどんなリスクを抱えているステージなのか」を整理することが、入りどきを判断する第一歩になります。
基本は設立から1年以内に方向性だけは決めておく
多くの会社にとっては、設立から1年以内に法人保険の方向性だけでも決めておくのがおすすめです。
理由は、設立後すぐに社会保険の届出や銀行とのやり取りを行う中で、役員報酬・借入額・売上見込みといったお金の前提条件が固まり始めるからです。
このタイミングで
- 経営者に万が一があったとき、いくら必要か
- 会社として毎月どの程度の保険料なら払えるか
を考えておくと、その後の保障設計がスムーズになります。
実際の契約は少し先でも構いませんが、「うちは今、何を優先してどこまで備えるのか」を口頭ベースではなく、数字で決めておくことで、営業トークに振り回されずに自分たちに合ったプランを選べるようになります。
迷ったときは「今入らないリスク」から逆算する
法人保険の加入タイミングで悩んだときは、「今入るメリット」ではなく「今入らないリスク」から考えると判断しやすくなります。
社長に万が一があったとき、会社に起きることを一度イメージしてみると、
- 借入の返済が止まる
- 売上が落ちて資金繰りが悪化する
- 従業員や取引先への支払いが滞る
といった現実的な影響が見えてきます。
そのうえで、
- 社長に何かあったときに、会社として最低限いくら必要か
- その金額を内部留保だけでまかなえるのか
- 足りない分を法人保険でどこまで補うのか
と逆算していくと、「今すぐ必要な保障」と「後回しにしてもいい保障」が自然と整理されます。
社会保険との違いから見る「必ず入るもの」と「任意で入る法人保険」
これから社会保険との違いから見る「必ず入るもの」と「任意で入る法人保険」について解説します。
ここでは次の内容をお伝えします。
- 会社設立と同時に加入義務がある社会保険
- 法人保険は任意だが事業継続のために重要
- 社会保険・法人保険・個人保険の役割分担
会社設立と同時に加入義務がある社会保険
まず整理しておきたいのが「入らないと法律違反になる保険」と「任意で入る保険」の違いです。
株式会社や合同会社などの法人は、代表者が1人だけの会社であっても、健康保険と厚生年金保険については、会社設立と同時に加入義務が発生するとされています。
実務上は、設立日から5日以内に「健康保険・厚生年金保険新規適用届」などを年金事務所に提出するのが原則です。
この手続きは、社会保険料の負担はあるものの、従業員や役員の医療・年金を守るうえで欠かせない公的制度です。
つまり、社会保険は「入るかどうかを悩むもの」ではなく、法人を作った時点で必ず対応しなければならない義務だと押さえておきましょう。
法人保険は任意だが事業継続のために重要
一方で、ここでいう「法人保険」は、民間の生命保険や損害保険会社が提供する商品で、加入は任意です。
加入しなくても罰則があるわけではありませんが、経営者に万が一があったときの事業継続資金や、借入金の返済原資、退職金・弔慰金の財源など、会社ならではのリスクに備える役割を持ちます。
社会保険だけでは、会社の運転資金や借入返済まではカバーできません。
その部分を法人保険で補うことで、社長や主要メンバーに何かあっても会社が急に止まらないようにするイメージです。
社会保険・法人保険・個人保険の役割分担
全体像をつかみやすくするために、役割をざっくり分けると次のようになります。
- 社会保険:従業員・役員個人の医療・年金・労災など、公的な最低限の保障
- 個人保険:家族の生活費や住宅ローンなど、プライベートの生活防衛
- 法人保険:会社の借入・運転資金・退職金など、事業の継続や整理に関わるお金
法人保険の入りどきを考えるときは、この3つのどこをカバーしたいのかを整理しておくと、必要以上に大きな保障を抱え込まずに済みます。
設立直後からすぐに法人保険に入った方がいい会社・待ってもいい会社
これから設立直後からすぐに法人保険に入った方がいい会社・待ってもいい会社について解説します。
ここでは次の内容をお伝えします。
- すぐに法人保険に入った方がいい会社の条件
- 売上や資金繰りを見てからでよい会社の条件
- 「全く入らなくていい会社」はほとんどない理由
すぐに法人保険に入った方がいい会社の条件
設立と同時、もしくは設立から数カ月以内に法人保険を検討した方がいいのは、次のような会社です。
- 銀行借入があり、社長の個人保証・連帯保証がついている
- 社長がほぼ1人で売上を作っている1人社長・少人数の会社
- 社長が現場のキーマンで、長期入院や死亡時の影響が非常に大きい業種
こうした会社では、社長の万が一がそのまま
- 借入返済のストップ
- 売上の急減
- 資金ショート
につながりやすいため、早めに死亡保障や就業不能保障を検討する価値があります。
実務としては、社会保険の手続きや借入条件が見えてくるタイミングとあわせて、最低限の保障だけでも設定しておくと安心感がぐっと変わります。
売上や資金繰りを見てからでよい会社の条件
逆に、次のような会社は、設立直後から高額な法人保険に入る必要はあまりありません。
- 自己資金中心で借入が少ない、またはゼロ
- まだ売上がほとんど立っていない
- まずは固定費を極力抑えたい段階
このようなケースでは、
- 社長個人の保険である程度カバーできているか
- 社会保険による公的保障で最低限は守られているか
を確認したうえで、最初は小さな保障からスタートし、売上・利益が見えてきた段階で保障額や商品タイプを見直すやり方でも十分です。
「全く入らなくていい会社」はほとんどない理由
とはいえ、法人保険が全く不要と言い切れる会社はそれほど多くありません。
会社を継続するにしても、きれいに整理・清算するにしても、
- 借入金の返済
- 取引先・従業員への支払い
- 代表者の退職金・弔慰金
など、まとまったお金が必要になる場面は必ず出てきます。
内部留保や個人資産で十分に対応できる会社であれば別ですが、多くの中小企業にとっては、法人保険をうまく組み合わせることで、万が一のときのダメージをやわらげることが現実的な選択肢になります。
ステージ別に見る「設立年数ごとの法人保険の考え方」
これからステージ別に見る「設立年数ごとの法人保険の考え方」について解説します。
ここでは次の内容をお伝えします。
- 設立〜1年目:最低限の死亡・高度障害リスクに備える
- 2〜3年目:黒字化・借入額にあわせて保障を拡充する
- 5年目以降:退職金や事業承継も視野に入れた見直し
設立〜1年目:最低限の死亡・高度障害リスクに備える
設立〜1年目は、会社の土台づくりで精一杯の時期です。
この段階で優先したいのは、節税や積立ではなく
- 経営者の死亡・高度障害時に事業を止めないための資金
- 一旦立て直すための当面の運転資金
といった、最低限の保障です。
保険料をかけすぎると、創業期のキャッシュフローを圧迫してしまいます。
まずは小さな保障で土台をつくり、売上・利益が安定してきたら、保障額や商品タイプを見直すくらいのイメージがちょうど良いバランスです。
2〜3年目:黒字化・借入額にあわせて保障を拡充する
2〜3年目になってくると、
- 毎月の売上・利益
- 借入残高と返済スケジュール
- 従業員数
といった数字が見え始めます。
ここで改めて、
- 黒字が続いた場合に必要な事業継続資金
- 借入金の返済原資としてどこまで保険でカバーするか
を考え、必要に応じて保障の拡充や商品タイプの見直しを行います。
この時期によく起こるのが、節税効果だけを見て返戻率の高い長期積立型保険に飛びつき、数年後の資金繰り悪化で解約せざるを得なくなるパターンです。
解約タイミングによっては損失や思わぬ課税が発生することもあるので、キャッシュフローとのバランスを最優先で考えましょう。
5年目以降:退職金や事業承継も視野に入れた見直し
設立から5年、10年と経ってくると、会社の将来像も少しずつ見えてきます。
このタイミングで検討したいのは、
- 経営者の退職金づくり
- 後継者がいる場合の事業承継資金
- 経営者が引退した後の生活資金
といった中長期のテーマです。
法人保険の中には、解約返戻金を退職金原資として活用できる商品もありますが、会社の成長スピードや事業方針の変化も踏まえて、一度加入したら終わりではなく、数年ごとに見直していくことが大切です。
法人保険に入る前に整理しておきたいお金とリスクのチェックポイント
これから法人保険に入る前に整理しておきたいお金とリスクのチェックポイントについて解説します。
ここでは次の内容をお伝えします。
- 役員報酬・借入・売上見込みを数字で把握する
- 万が一のときに守りたい相手と金額を具体化する
- 資金繰りを崩さない保険料の上限ラインを決める
役員報酬・借入・売上見込みを数字で把握する
保険の相談をする前に、最低限押さえておきたい数字があります。
- 直近1〜数年の売上・利益の見込み
- 現在の借入残高と返済スケジュール
- 役員報酬の金額と今後の変更予定
- 毎月どのくらいなら保険料を払えるか
これらをざっくりでも数値で把握しておくと、保険の営業担当や税理士との話が一気に具体的になります。
数字が分からないまま話を聞いてしまうと、なんとなく安心だからという理由で過大な保障に入ってしまい、後で資金繰りに苦しむ原因になりかねません。
万が一のときに守りたい相手と金額を具体化する
次に整理したいのが「誰を、どこまで守りたいか」です。
- 家族の生活をどのラインまで守りたいのか
- 会社として、従業員や取引先にどこまで責任を果たしたいのか
- 事業を継続するのか、きれいに整理・清算するのか
といったイメージを言葉にしておくと、必要な保険金額も見えやすくなります。
そのうえで、
- 借入残高+数カ月分の運転資金
- 退職金や弔慰金として用意したい金額
など、ざっくりした目標額を決めておくと、保険の設計がブレにくくなります。
資金繰りを崩さない保険料の上限ラインを決める
最後に、法人保険の加入前に決めておきたいのが「ここまでなら無理なく払える」という保険料の上限ラインです。
このラインを決めずに話を聞いてしまうと、節税効果や返戻率の数字に目がいってしまい、キャッシュフローに対して大きすぎる保険料を抱え込むリスクがあります。
保険料は一度契約すると長期にわたって支払いが続きます。
毎月の固定費として見ても無理のない範囲を、事前に自分の中で決めてから相談に行くと、冷静な判断がしやすくなります。
法人保険の入りどきで失敗しないための注意点
これから法人保険の入りどきで失敗しないための注意点について解説します。
ここでは次の内容をお伝えします。
- 節税だけを優先して加入しない
- 営業トークだけで決めず、複数社・複数商品を比較する
- 税理士・社労士・保険の専門家への相談の仕方
節税だけを優先して加入しない
法人保険の相談をしていると、どうしても気になるのが節税の話です。
ただ、節税効果だけを見て加入すると、
- 解約タイミングによって損失が出る
- 思わぬタイミングで課税される
- 保険料負担で資金繰りが苦しくなる
といったリスクがあります。
本来の目的は、会社と家族を守ることです。
節税はあくまで「副産物」と考え、保障内容とキャッシュフローのバランスが取れているかを優先して確認しましょう。
営業トークだけで決めず、複数社・複数商品を比較する
法人保険は、会社の規模や業種、借入状況によって向き・不向きが変わります。
一社の提案だけで即決するのではなく、
- 保障内容
- 保険料
- 解約返戻金の推移
- 税務上の取り扱い
などを比較しながら、複数の候補を検討することが大切です。
同じように見える商品でも、細かい条件の違いで将来の負担や解約時の扱いが大きく変わることがあります。
数字と条件を冷静に見比べるためにも、提案書は必ず持ち帰って検討するくらいのスタンスが安心です。
税理士・社労士・保険の専門家への相談の仕方
法人保険は、保険だけでなく税金や社会保険のルールとも密接に関わります。
そのため、保険会社や代理店の担当者だけでなく、
- 税理士:損金・資本計上の扱い、将来の税負担
- 社労士:社会保険料とのバランス、役員報酬の設計
- 保険の専門家:商品比較や設計の妥当性
といった視点からも確認しておくと安心です。
相談するときは、この記事で整理したような
- 会社のステージと数字の情報
- 守りたい相手と金額のイメージ
を共有しておくと、より自社に合った提案が返ってきやすくなります。
会社設立後の法人保険加入のタイミング:まとめ
会社設立後、法人保険に入るタイミングは「何年目か」ではなく、会社のステージとリスクで決まります。
社会保険は設立と同時に加入義務がありますが、法人保険は任意であり、経営者の万が一に備えて事業を守るためのものです。
借入が大きい1人社長や、社長が売上のほとんどを担う会社は、設立直後から最低限の保障を検討した方が安心です。
一方で、自己資金中心で借入が少ない会社は、小さな保障から始め、黒字化にあわせて見直す方法も現実的です。
加入前には、売上・借入・役員報酬などの数字と、守りたい相手や金額を整理し、節税ありきではなくキャッシュフローと目的に沿った設計を心がけましょう。
- 社会保険は設立と同時に加入義務、法人保険は任意
- 設立から1年以内に「方向性」だけでも決めておくと安心
- 借入と社長依存度が高い会社ほど、早めの加入が重要
- ステージに応じて「保障重視→退職金・承継」へと発想を広げる
- 節税だけに引っ張られず、数字と目的に基づいて設計する

