アパートオーナーが火災保険を契約・更新する際、多くの方が悩むのが「免責金額(自己負担額)をいくらに設定するか」という点です。保険料を抑えたいなら免責金額を高くしたいところですが、実際に損害が起きたときは自己負担が大きくなり、入居者対応の遅れや空室損失に波及するリスクもあります。本記事では、複数物件を保有するオーナー様に向けて、免責金額の仕組みから実務的な決め方、複数物件の場合の統一・個別化の判断基準まで、火災保険を中心に2,000件以上のご相談に対応してきた保険コンサルタントの知見を交えて解説します。
- 免責金額は保険料と自己負担のバランスで決まり、物件特性や資金繰りによって最適額は一件ごとに異なります
- 複数物件を保有する場合は、管理効率を高める「統一」と、リスクに応じた「個別化」を両立させる視点が欠かせません
- 小規模な損害でも自己負担が大きいと修繕対応が遅れ空室損失に波及しうるため、家賃収入補償特約とあわせて検討することをおすすめします

【保険コンサルタント:長谷川】
保有資格
- 損害保険募集人資格
- 生命保険募集人資格
- 損害保険大学課程資格
- FP2級
保険業界歴12年、火災保険取扱件数2,000件、保険金の請求対応の顧客満足度98%
火災保険の免責金額とは?アパートオーナーが知るべき基本
この見出しでは、免責金額の基本的な意味と、アパート経営における考え方の出発点を解説します。
免責金額とは、火災保険の契約者があらかじめ設定しておく自己負担額のことです。被害額が免責金額以下であれば保険金は支払われず、免責金額を超えた分についてのみ保険金の対象になる仕組みが一般的です。たとえば免責金額を5万円に設定していれば、被害額が3万円の損害では保険金は出ず、全額が自己負担となります。
免責金額の決定は、「保険料をできるだけ安くしたい」という思いと、「いざという時の自己負担をできるだけ減らしたい」という思いの間でバランスを取る作業です。どちらか一方だけを優先すると、あとで後悔につながりやすいポイントといえます。
特にアパート経営では、この判断がオーナー様ご自身の負担だけでなく、入居者様への対応スピードにも直結します。小規模な破損や汚損であっても、入居者様への説明や修繕対応は避けて通れません。「入居者対応が発生する」という前提を持って免責金額を検討することが、火災保険選びで失敗しないための5つのポイントでも触れているとおり、契約内容を正しく理解する第一歩になります。
免責金額が高いとなぜ保険料が安くなる?メリット・デメリット
この見出しでは、免責金額と保険料の関係、そしてアパートオーナー特有のデメリットを整理します。
一般的に、免責金額を高く設定するほど保険料は安くなる傾向があります。保険会社から見ると、免責金額が高い契約は小さな損害を契約者自身が負担する契約であるため、保険会社が支払うリスクが下がり、その分だけ保険料に反映されるという理屈です。逆に免責金額を0円に設定すると、どんな小さな損害でも保険金請求の対象になるため、保険料は相対的に高くなります。
免責金額を高めに設定するメリットは、年間保険料の負担を継続的に抑えられる点です。複数物件を保有している場合、この差は物件単位で積み重なるため無視できないコスト差になることがあります。
一方でデメリットは、実際に損害が発生したときの自己負担が大きくなることです。特に破損や汚損など比較的小規模な損害では自己負担が全額になる可能性があり、「自己負担分の修繕費を用意できず対応が遅れる→入居者様の不満につながる→空室が長期化する」という連鎖に発展しうる点は、アパート経営特有の論点です。
なお、火災保険は2026年10月にも保険料の追加改定が予定されており、更新のタイミングは免責金額を見直す好機でもあります(詳しくはアパート火災保険の見直しタイミングと特約の選び方ガイドをご参照ください)。
免責金額の2つの設定方式を理解する(エクセス方式とフランチャイズ方式)
免責金額の計算方法には、大きく分けて「エクセス方式」と「フランチャイズ方式」の2種類があります。この違いを知らずに契約すると、想定していた保険金と実際の支払額にズレが生じることがあります。
エクセス方式(現在の主流)は、被害額から免責金額を差し引いた分だけ保険金が支払われる方式です。被害額が免責金額を下回る場合、保険金は支払われません。
- 例:免責金額5万円・被害額20万円 → 保険金15万円
- 例:免責金額5万円・被害額3万円 → 保険金0円(自己負担)
一方フランチャイズ方式(古い契約に残っていることがある方式)は、被害額が免責金額以上であれば被害額の全額が保険金として支払われ、下回る場合は保険金が支払われません。
- 例:免責金額5万円・被害額20万円 → 保険金20万円(差額分も含む全額)
- 例:免責金額5万円・被害額3万円 → 保険金0円(自己負担)
現在の契約の多くはエクセス方式ですが、以前から続く契約ではフランチャイズ方式のまま更新を重ねているケースも見受けられます。どちらの方式かご不明な場合は、更新時に保険証券や重要事項説明書でご確認いただくか、代理店へお問い合わせいただくことをおすすめします。
補償種類別の免責金額の設定方法(風災・水災・破損汚損の違い)
火災保険は「火災」だけでなく、風災・雹災・雪災・水災・破損汚損など複数の補償がセットになっているのが一般的です。すべてを同じ免責金額にそろえる契約も多く見られますが、災害ごとの発生頻度や被害規模には差があるため、補償種類ごとに免責金額を検討する視点もあります。
- 火災・落雷・破裂爆発: 発生頻度は比較的低いため、免責金額を高めに設定して保険料を抑える選択肢が考えられます
- 風災・雹災・雪災: 地域によっては発生頻度が高く、特に積雪地域では免責金額を低めに設定しておく考え方もあります
- 水災・破損汚損: 水災は一度発生すると被害が大規模になりやすい一方、破損汚損は入居者様トラブルに起因する修繕費として発生しやすく、物件の築年数や立地で判断が分かれます
積雪の多い地域にアパートを所有されているオーナー様からは、「雪害は火災保険で補償される?アパートオーナー向け」で解説しているような雪災特有の補償範囲に関するご相談を多くいただきます。補償種類ごとにリスクの出方が異なることを踏まえ、複数物件をお持ちの場合は「どの補償を統一し、どの補償を物件ごとに変えるか」を整理しておくと、更新時の判断がスムーズになります。
【複数物件をお持ちの場合】免責金額を統一すべきか個別化すべきか
複数物件をお持ちのオーナー様からは、「物件ごとに保険会社も免責金額もバラバラで、把握しきれていない」というお声を数多くいただきます。免責金額についても同様の悩みが起こりやすく、統一・個別化それぞれのメリットを整理することが出発点になります。
免責金額を統一するメリット
- 契約書類・更新書類の基準がそろい、管理の手間が減ります
- 担当者を一本化できれば、事情を説明し直す負担が軽くなります
- 「他の物件は免責0円だから、この物件もそろえたい」という判断がしやすくなります
物件特性ごとに個別化するメリット
- 築年数によって水災などのリスクの出方が異なります
- エリアによって災害リスクは異なるため、立地に応じた設定が可能になります
- 入居者層(シニア向け・ファミリー向けなど)によって想定すべきリスクの性質が変わります
弊社が複数物件の火災保険の一括見直しをご支援する際も、「複数物件をまとめて見直すことで、単独では見えなかった選択肢が見つかることは少なくありません」というお声を多くいただきます(複数物件 火災保険 一括見直しのメリットより)。また、「物件ごとに構造も築年数も違うので、それぞれどう考えればいいか分からない」というお悩みもよく伺いますが、大切なのは保有物件全体でリスクをどう配分するかという視点です(賃貸経営に地震保険は必要?複数物件見直しより)。
弊社では、複数物件の火災保険を見直す際、管理のしやすさを優先して統一の方向をご提案しつつ、物件特性によって明確な理由がある場合は個別化もあわせてご提案する方針を取っています。「なぜその物件だけ異なる設定にするのか」を整理して残しておくことで、担当者が変わっても一貫した対応が可能になります。複数物件をお持ちで統一の仕方に迷っている方は、こちらから一度ご相談ください。
免責金額と空室損失・家賃収入補償特約の関係
ここは保険料の比較だけでは見落としやすい、アパート経営ならではの視点です。
小規模な火災や損害であっても、入居者様への修繕対応は避けられません。自己負担額が大きい設定にしていると修繕費用をすぐに用意できず対応が後回しになりやすく、それが入居者様の退去や空室期間の長期化につながる可能性があります。免責金額は単なる自己負担額ではなく、アパートオーナー様にとっては家賃収入への影響度でもあるという考え方です。
こうしたリスクへの備えとして検討したいのが、修理期間中のキャッシュフロー維持を目的とした「家賃収入補償特約」です。ただし、この特約には付帯条件があります。空室率がすでに高い物件では、更新のタイミングで特約が付けられないことがあるためです。実際に、「空室率がボーダーラインに近い物件を持つオーナー様ほど、契約更新のタイミングで初めて『この物件には特約が付けられません』と告げられ、驚かれるケースが少なくない」というお声もあります(アパート空室と火災保険の家賃収入特約より)。迷う場合こそ自己判断で放置せず、早めに保険会社や代理店へご相談いただくことが望ましいといえます。
免責金額は保険料の安さだけで決めるのではなく、「いざという時に自己資金で修繕対応ができるか」「入居者対応が滞らないか」まで含めて検討することをおすすめします。家賃収入補償特約とセットで考えることで、免責金額を高めに設定しても家賃収入への影響を抑えるという選択肢も見えてきます。
地域の災害リスク(ハザードマップ)から免責金額を決める
免責金額は、物件が所在する地域の災害リスクによっても検討の方向性が変わります。所在地の水災・土砂災害・雪災リスクは、国土交通省の「重ねるハザードマップ」や自治体の防災マップで確認できます。水災リスクが高いとされる地域であれば水災の免責金額を低めに、リスクが低いとされる地域であれば免責金額を高めにして保険料を抑える、といった補償種類ごとの優先順位づけが考えられます。
複数物件がエリア分散している場合は、物件ごとにハザードマップを確認したうえで「この物件は水災リスクが高いので、この補償だけは分けて設定する」という個別化の判断がしやすくなります。見直しのタイミングは、更新案内が届く3ヶ月〜1ヶ月前や、新規物件の取得時、リフォーム・入居者層の変化のタイミングなどが目安です(アパート火災保険の見直しタイミングと特約の選び方ガイドで詳しく解説しています)。地域リスクと物件特性の両方を踏まえて判断したい場合は、専門家への相談も選択肢のひとつです。
アパートオーナーが免責金額で陥りやすい失敗と注意点
- 保険料の安さだけを見てすべての補償を同じ免責金額にそろえてしまう:発生頻度の低い災害は保険料の削減効果が限定的になり、発生頻度の高い災害は自己負担が想定以上になることがあります
- 契約途中で免責金額だけを変更したいと思っても原則できない:変更は次の契約更新のタイミングに限られるため、契約前の検討が重要です
- 古い契約でフランチャイズ方式のまま更新を重ねている:更新時に相談すれば、現在の商品への切り替えを検討できる場合があります
なお、地震保険には「免責金額」という考え方自体がなく、契約した保険金額に対して被害の程度に応じた割合で保険金が支払われる仕組みです。火災保険と地震保険は別の保険として制度が異なる点もあわせて押さえておきたいポイントです。契約内容を正しく理解しないまま更新を重ねると、いざという時に想定していた補償が受けられない可能性もあるため(火災保険選びで失敗しないための5つのポイントも参考にしてください)、疑問があれば更新前に確認しておくことをおすすめします。
アパートオーナー向け免責金額チェックリスト(決定前に確認)
免責金額を決める前に確認しておきたい項目をチェックリスト形式でまとめます。ご自身の状況と照らし合わせながら、ひとつずつ確認してみてください。
物件情報の確認
- 所有物件の築年数(古い場合は水災リスクも考慮)
- 物件所在地のハザードマップ上のリスク(水災・雪災など)
- 入居者層(シニア向け・ファミリー向けなどでリスクの性質が異なる)
資金繰りの確認
- 毎月の経営利益はどの程度か
- いざという時の予備資金をどのくらい確保できているか
- ローン返済や相続のタイミングと重ならないか
複数物件の場合の確認
- 現在、何社の保険会社と契約しているか
- 担当者の継続性は確保されているか
- 各物件の免責金額をすべて正確に把握できているか
チェックの結果、統一・個別化のどちらが合うか判断がつかない、把握できていない契約が複数ある、という状態であれば、一度整理のタイミングとして専門家にご相談いただくことをおすすめします。
まとめ
免責金額は「保険料の安さ」と「いざという時の自己負担」のバランスで決まるものであり、正解はひとつではなく、物件特性や資金繰りによってオーナー様ごとに異なります。アパート経営では、小規模な損害でも自己負担の大きさが入居者対応の遅れ、ひいては空室損失に波及しうるという特有のリスクがあるため、家賃収入補償特約とあわせて検討する視点が欠かせません。
複数物件を保有されている場合は、管理効率を高める「統一」と、物件特性に応じた「個別化」を両立させることが、長期的な経営リスクの最適化につながります。判断に迷う場合は、無理にご自身だけで抱え込まず、専門家に相談することも一つの選択肢です。
複数物件の免責金額の見直しは、単なる保険料削減ではなく経営リスクの最適化でもあります。担当者が継続してサポートいたしますので、最適なプランを一緒に整理したい方は、お問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください。

